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福井地方裁判所 昭和43年(行ウ)1号 判決

福井県武生市片屋町五八号四番地の二七

原告

北陸運送株式会社

右代表者代表取締役

笹原哲哉

右訴訟代理人弁護士

小酒井好信

同県同市中央一丁目六番一二号

被告

武生税務署長

大窪博

右指定代理人部付検事

榎本恒男

同法務事務官

石原裕二

山口三夫

吉田利雄

同大蔵事務官

北野太慶雄

丸山三樹雄

右当事者間の昭和四三年(行ウ)第一号法人税課税処分取消請求事件に付き、当裁判所は次の通り判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

1. 被告が昭和四二年五月三一日付、法人税額等の更正通知書および加算税の賦課決定通知書をもつて原告に通知した。

(1)  原告の昭和三八年一〇月二〇日から昭和三九年三月三一日までの事業年度分欠損金額を金三八万八、二三九円とする旨の更正

(2)  原告の昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度分欠損金額を零とする旨の更正

(3)  原告の昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の法人税額を金五四万六、四三〇円とする旨の更正を、金沢国税局長の昭和四二年一一月二一日の審査決定変更により減額された金四七万〇、二七〇円の限度において

いずれもこれを取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨

第二、主張

(原告)

一、請求原因

(一) 原告の地位

原告は、原告の前代表取締役訴外笹原正哉(以下「訴外笹原」という)が個人で経営していた運送業を引継ぎ、運送事業を目的として昭和三八年一〇月二〇日設定された資本金五〇〇万円(発行済株式総数一〇、〇〇〇株)の株式会社で旧法人税法(昭和三八年施行のもの)七条の二に規定する同族会社である。また原告は決算期を毎年三月三一日と定め、被告に青色申告の届出をなした青色申告法人である。

(二) 原告の法人税確定申告

原告は、被告に対し法人税確定申告書を以つて、以下の通りそれぞれの事業年度における法人税の確定申告をなした。

1. 第一期事業年度(昭和三八年一〇月二〇日から昭和三九年三月三一日まで)

申告日 昭和三九年六月一日

欠損税額 九八万一、四三一円

法人税額 〇円

2. 第二期事業年度(昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日まで)

申告日 昭和四〇年五月三一日

欠損金額 一二六万七、九四二円

法人税法 〇円(還付請求税額一万四、八七九円)

3. 第三期事業年度(昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日まで)

申告日 昭和四一年五月三一日

欠損金額 七〇万九、六五一円

法人税額 〇円(還付請求税額八万八、二七〇円)

(三) 被告の更正処分

しかるに昭和四二年五月三一日被告は原告に対し、法人税額等の更正通知書および加算税の賦課決定通知書を以つて、原告の前記各事業年度における各申告を、国税通則法二四条に基づき以下の通りそれぞれ更正(以下「本件更正処分」という)した。

1. 第一期事業年度

否認欠損金額 五九万三、一九二円

更正欠損金額 三八万八、二三九円

法人税額 〇円

(但し、別表NO.8およびNO.9の車両の売却損のうち譲受価額を増額した部分に関する)

2. 第二期事業年度

否認欠損金額 一三一万二、七四一円

所得金額 〇円

法人税額 〇円(還付税額一万四、八七九円)

(但し、第一期事業年度の更正に起因し、別表NO.1およびNO.10ないしNO.13の車両の売却損のうち、譲受価額を増額した部分に関する)

3. 第三期事業年度

否認売却損金 一四七万二、六二一円

否認減価償却金 一三四万三、二三七円

課税所得金額 一七六万二、七六七円

法人税額 五四万六、四三〇円

過少申告加算税 二万二、九〇〇円(国税通則法六五条一項)

(但し、第一・二期の更正に起因して別表NO.2およびNO.4の車両の売却損のうち、譲受価額を増額した部分に関する)

(四) 本件更正処分の理由

本件更正処分の理由とするところは、原告がその設立に当り訴外笹原から売買により譲渡を受けた別表記載の一三台の車両(以下「本件車両」という)および営業権の譲受価額(車両価額一、八四二万六、〇〇〇円、営業権価額八〇〇万円、合計二、六四二万六、〇〇〇円)のうち、後記本件和解により増額された八九九万二、〇二三円(車両価額四九九万二、〇二三円、営業権価額四〇〇万円、右増額前の車両価額は別表Daの一、三四三万三、九七七円、営業権価額は四〇〇万円)は、法人の過大な資産の受入れであつて、旧法人税法三〇条(昭和四〇年法律第三四号による改正前権のもの)所定の同族会社の行為計算に当り、右増加額は原告の訴外笹原に対する貸付金であるからこれを否認するというにある。

(五) 本件車両の引継時の時価

しかしながら本件車両および営業権価額は、本件和解により増額された価額を以つて適正な時価というべきである。即ち、

1. 原告は、設立の翌日昭和三八年一〇月二一日(以下「本件引継時」という)訴外笹原から同人所有の本件車両(登録番号および年月日、車種、訴外笹原の取得年月日及び価格は別表AないしCの通り)一三台および営業権を、右当時同人備付の帖簿価額一、七四三万三、九七七円(車両価額は別表Daの一、三四三万三、九七七円、営業権価額四〇〇万円、以下「当初譲受価額」という)で売買により譲受けた。

2. ところで訴外笹原は、右譲受後の昭和三九年五月ころに至り、原告に自己の個人資産ならびに営業権一切を譲渡したにも拘らず、なお原告に対し負債約九八〇万円が残存する結果となつたことに不審と疑義を抱き、企業財務に関する職業的専門家である公認会計士訴外小酒井博に税務相談をした結果、本件車両および営業権の当初譲渡価額に付いての誤謬が指摘された。即ち右誤謬は、当初譲渡価額を右当時の同人の簿価によるかあるいは時価により計上するかは、会計理論上の資産に関する会計原則ないし会計処理手続の選択に係るものであることは自明の理であるのに、同人が譲価額は簿価と一致させるべきものと誤信していたことによるものであつた。

3. 右の如き事情にあつたことから訴外笹原は昭和三九年五月ころ原告に対し、本件車両および営業権の譲渡価額の増額改訂を申込んできた。そこで原告は本件引継時の右各価額を算定するに当り、本件引継時における本件車両の状態を熟知し、且つ車両査定実務にも精通している専門家である訴外北陸日野自動車株式会社の当時の福井営業所長訴外細谷義男、同営業所営業課長四十谷延広の両名に鑑定評価(以下「細谷・四十谷鑑定」という)をなさしめたところ本件車両については別表Eの通り一、八四二万六、〇〇〇円、営業権については八〇〇万円という価額評価を得た。

しかして右のうち車両に関する鑑定は、自動車販売業界において権威ある中古車市場価格表である訴外有限会社オートガイド発行のオートガイド自動車価格月報(以下「オートガイド月報」という)一九六三年五月一日から同年六月三〇日版を参考資料とし、これに各車両の各部品の点検等の整備状況ならびに別表3ないし5の車両については取付けられているポールトレーラーの価額を加算して修正し、更に長期的使用収益を前提とする使用価値を考慮してなされたもので、いずれも適正な価格である。

4. しかして原告と訴外笹原は価額改訂交渉を尽した結果、両者間に昭和三九年五月二八日武生簡易裁判所昭和三九年(レ)第七号売買契約無効確認請求和解事件をもつて、本件車両および営業権価額を、昭和三八年一〇月二一日の本件譲渡時において二、六四二万六、〇〇〇円(車両価額は別表Fの通り四九九万二、〇二三円増額されて、同表Eの通り一、八四二万六、〇〇〇円、営業権価額は四〇〇万円増額されて八〇〇万円)と各改訂のうえ、右各譲渡を有効とする旨の本件和解が成立したものである。よつて右各価額はいずれも適正な時価である。

(六) 訴外金沢国税局長の裁決

そこで原告は、被告のなした本件各更正処分を不服として昭和四二年六月三〇日訴外金沢国税局長に対し、各審査請求をなしたところ、右国税局長は同年一一月二一日(第三期事業年度については同月二〇日)以下の通りの裁決をなした。

1. 第一期事業年度

審査請求中、原告の申告した本件営業権価額八〇〇万円を理由ありと認め、右部分につき第一期事業年度における更正処分を取消し、本件車両価額については請求を理由なしとして右更正処分を是認したが、欠損金額は右更正処分と異なることがないとして結局審査請求を棄却した。

2. 第二期事業年度

本件車両の改訂譲受価額の増額分の否認について第二期事業年度における更正処分を是認し、審査請求を棄却した。

3. 第三期事業年度

第三期事業年度における更正処分中、本件車両の減価償却計算手続に誤謬のあつたことを認め、右処分認定の減価償却超過額一三四万三、二三七円を一〇九万八、一七六円と減額し、これに伴ない右処分について

課税所得金額 一五一万七、七〇六円

法人税額 三八万二、〇〇〇円

過少申告加算税 一万九、〇〇〇円

を上廻る分を取消す旨の裁決をなした。

(七) 本件更正処分および裁決における所得金額の計算

被告が更正し、且つ訴外金沢国税局長が裁決した原告の各事業年度の所得金額の計算の内訳は以下の通りである。

1. 第一期事業年度分

〈省略〉

〈省略〉

2. 第二期事業年度分

〈省略〉

注 右表のとおり、裁決において車両の受入価額否認にともなう売却損否認額は一三一万三、〇一五円となり、原処分の売却損否認額は一三一万二、七四一円であるから右金額を超過することになるので棄却したものである。

3. 第三期事業年度分

〈省略〉

しかしながら本件各更正処分には前記の通り本件車両の時価を過少に評価した違法があるから、請求の趣旨記載の裁判を求める。

二、被告の主張に対する認否および反論

被告の主張のうち、訴外笹原が本件車両の当初譲渡価額と本件和解により増額改訂後の価額との差額につき、個人として所得の申告をしていないことは認める。

(一) 本件車両の時価に関する主張に対する反論

1. 本件車両の本件引継時の適正な時価は本件和解により改訂された一、八四二万六、〇〇〇円である。そもそも本件はいわゆる法人成りの場合であつて、原告の本件車両の買受目的は、買受と同時に使用収益することが可能であつた右車両を、訴外笹原同様の事業目的である運送事業に供し、以後継続的に使用する目的の下に買受けたものであるからかかる場合には右車両の機能価値(使用価値)を考究してその時価を確定すべきであり、機能価値は一度の使用で中古品となりその価値が激減する売却を予想して与えられる売却時価とは異なり、使用開始時から廃棄するまで殆んど価値に変化のないのが常である。原告は買受目的に照らしかかる機能価値を十分考慮して右原告主張額で買受けたもので、右は適正な時価である。機能価値を無視して本件車両の時価を論ずる被告の主張は失当である。

2. 被告は、本件車両の引継時の定率法による減価償却後の未償却残高(簿価)は、右車両の登録時から計算すると合計一、二八三万、二一三円(別表Dc)であると主張するが、車両は事業の用に供した時点から減価償却を行なうべきことは会計理論上確立された原則であり、これによれば別表Da即ち訴外笹原の簿価となる。そして被告は原告主張の定率法による簿価を正当な価額とするが、所得税法四九条、同法施行令一二五条によれば償却資産の償却の方法を選定し、所轄税務署長に届け出ない場合には、個人が購入した償却資産の減価償却は原則的には定額法によるべきものとされており、定額法によれば本件車両の簿価は一、八二四万〇、八四〇円(別表Db)となり、なおまた車両運搬具は所得税法施行令一二九条減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一一減価償却資産の残存割合で基本的には一〇%である旨が法定せられている。しかし、会計理論上、減価償却とは費用配分の方法であり、全く会計技術的のものであるから、償却の結果たる固定資産の帳簿価額はその資産の能率価値、売却価格、従つて時価を示すものではなく、これとは別な概念であるから簿価をもつて時価とはなし難い道理である。なお中古車取引の実状が未償却残高を相当程度下廻る価格でなされているということはない。

3. 被告は、オートガイド月報昭和三八年九月一日ないし同年一〇月三一日版に基づき本件車両の平均市場価格を合計約一、二五九万余円と算定した旨主張するが、むしろ本件車両の引継時の直前の同月報同年五月一日ないし同年六月三〇日版に基づき平均市場価格を算定すべきであつて右によれば合計約一、六〇〇万円になる(内訳は別表Hbで、下取価格は同aの通り)。

しかし、右平均市場価格は、売却時価を意味し、機能価値を注視して評価したものとは言えず、本件車両の如く継続して運送事業の用に供せられる場合には不適切な評価方法であるのみならず、そもそもオートガイド月報は東京地区の平均販売価格に過ぎなく、実際の市場価格は中古車の滞給関係、買受目的によつて異つてくるものである。

原告が、本件車両と同一物の買入れを予想して設定した「買入時価」(再調達価格)は原告主張の如く合計金一、八四二万六、〇〇〇円相当(別表E)である。

4. 被告は、損害保険会社の自動車価格表を本件車両の価格算定の資料とするが、損害保険会社は営利法人であり、且つ損害保険契約の一方の当事者として損害発生の場合には常に巨額な保険金支払義務を負担するのであるから、かかる保険金支払の際に使用される右価格表を継続的な使用収益を前提とする本件車両の機能価値を含めた値格評価の資料に用いることは不適切である。

5. 被告は、石川県中古自動車価格鑑定協会の中古車査定基準を本件車両の価格評価の資料とするが、右基準の車種別車令別標準残存価格率によれば、新車価格は一年後においては四〇ないし四五%、二年後においては二〇ないし二五%に減価するのであつて、車両の機能価値(使用価値)を全く無視しているのみならず右基準は石川県中古自動車価格鑑定協会の基準であり、原告肩書地の福井県には妥当しないから本件車両の評価基準としては不適切な資料である。

6. 被告主張の福井県内における自動車販売業者の取引実例ないし意見は被告恣意的な選択によるものであり、仮りに自動車販売業者の取引実例ないし意見と本件車両の改訂後の価額が一致しないとしても、直ちに右改訂後の価格評価が不当であるとすることは評価理論上許されない。

(二) 行為計算の否認に関する主張に対する反論

右に述べた通り本件車両の時価は原告主張額をもつて適正なものとされるべきところ、原告が当初契約の七ケ月後に価額改訂を行つた理由は先に詳述した通りであるが、会計処理の原則並びに手続に錯誤があり、これを後日発見するに至つた場合に速やかに是正すべきことは企業会計並びに税務会計上も適正妥当な処置とされているのであつて、かかる処置は同族会社であると否とに何等関連なく行なわれて然るべきものである。被告が本件価額改訂の真の動機として主張するところは健全な企業会計の慣行に照して到底容認することのできないものである。そしてそもそも法人税法一三二条の同族会社の行為計算の否認の規定中、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、もつぱら経済的、実質的見地において、当該行為計算が経済人として不合理、不自然のものと認められるかどうかを基準としてこれを判定すべきものであり、本件車両の価額改訂はいづれも正当な理由と実質的な経済価値に裏付けされたものであるから、異常、不合理、不自然なものとはいえず、また同族会社であるからといつて、この基準を越え広く否認が許されると解すべきでない。

(被告)

一、請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)ないし(四)は認める。

(二) 同(五)1は認める。同2および3は否認する。本件和解による増額改訂の真意および本件車両の時価ならびにその価額算定の根拠の詳細は後記の通りである。同4のうち原告主張の日に原告主張の趣旨の本件和解が成立したことは認め、右和解による価額が適正な時価であるとの主張は争う。

(三) 同(六)、(七) は認める。

二、被告の主張

(一) 本件車両の適正価額について

本件車両の昭和三八年一〇月二一日現在の適正価額は、本件更正処分において被告が認定した通り、訴外笹原の右当時の簿価一、三四三万三、九七七円(別表Da)を超えるものではないのであつて、その根拠は以下に述べる各事実を総合勘案して評価算定したものである。

1. 定準法による算定

本件車両について、旧所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正前の所得税法をいう)施行規則一二条の一三に定める定率法の方法によつて同施行細則一条の一一、同二条による減価償却を行なつた後の本件引継時の残存価額は別表Dcに示すとおりその合計額は一、二八三万八、二一三円である。

右の減価償却は、登録時から使用しているものとして通常の管理、使用をした場合における減価の計算を行なうものであるが、中古車取引の実情に照らしてみると自動車の所有者が自己の中古車を売却する場合の中古車価格は、右残存価額以下に取決められるものが通常であり、これを超えて取引されることは稀となつているのが実情である。

また、自動車販売業者の実態としては、中古車を下取りして新車を販売するに際し、顧客よりの新車の値引き要請に対して、販売政策上建値をくずされないために、表面上は新車を建値で販売したこととして、値引き相当額だけの分につき、中古車の下取り価格を引上げて売買契約を締結する事例が極めて多いのが顕著な事実である。従つて自動車の所有者がその中古車のみを売却する場合の実勢価格は自動車販売業者の下取り価格を大巾に下廻ると云つても過言ではないといえる。

2. オートガイド月報による算定

次にオートガイド月報一九六三年九月一日乃至一〇月三一日版を参考として調査した平均市場価格は、別表Haのとおり一、二六七万七、〇〇〇円である(但しNO.1の車両は一〇六万円で合計一、二五九万七、〇〇〇円、なおNO.3ないしNO.5の車両に取付けられているボールトレーラの価額は、同月報に記載がないため未償却残高により、また6の車両も同じく記載がないため同表Gの評価による)。

ところで右価格は自動車販売業者が買取つた中古車につき所要の整備を行ない、かつ、そのタイヤ全輪を新品と取りかえたうえ、販売経費および販売利益を加算した販売価格であつて、これを下取価格(同表Hc)と比較して判断すると、車両の所有者が売却する場合の価格は相当にこれを下廻ることが容易に推測されるのである。

なお、オートガイド月報は全国の自動車販売業者が参考資料として利用していること、全損害保険会社が、自動車損害保険業務に関して車両の時価算定の際基準価格の参考としていること、自治省、各都道府県税務関係部局において自動車取得税の創設に伴つて資料として利用すること等極めて権威のあるものである。

3. 損害保険会社の評価に基づく算定

また、訴外千代田火災海上保険株式会社新種業務部備付けの自動車価格表昭和三八年一一月版を基として算定した小売最終価格の平均価格は別表Ⅰのとおりで合計一、〇〇三万七、〇〇〇円(なおNO.3ないしNO.5の車両に取付けられているボールトレーラーの価額は右評価に記載がないため未償却残高による)である。そして、右平均価格は前記2と同様に車両の所有者がこれを実際に売却する場合の価格を相当に上廻つているものと推測される。

また、その他の損害保険会社の採用する平均価格も前記損害保険会社と同一の基礎資料により作成され、従つて、その平均価は前記損害保険会社のそれとほぼ同様であるといえる。

4. 中古車査定基準による算定

更に、財団法人日本自動車査定協会石川県支所の前身である石川県中古自動車価格鑑定協会の「中古車査定基準」による車種別車令別標準残存価格率は次表のとおりでありこれを訴外笹原の取得時の価額やその後本件譲渡時までの経過年数に乗じて算出したところ、別表Gのとおり合計九一二万四、七七六円となる。

車種別車令別標準残存価格率

〈省略〉

5. 自動車販売業者の取引価格

(1) 訴外石川いすず自動車株式会社が中古車を買入れする場合を調査するに、大型トラツクの評価基準はイ発売年式の発表から一年経過のものは新車価格の五割五分引とする(昭和三七年までは四割五分引とし、昭和三八年に五割五分引としたため昭和三八年は移行の時期に当り多くは五割引き。)ロ以後一年を経過する毎に二〇万円下げとする。ハ前記イの発表から四年を経過したものは廃車価格等を参考にして決定する、ニただしこの他に当該中古車の整備、走行粁数、使用期間等の状況に応じて普通のもの一~二割の増額若しくは減額を行ない評価しているとされている。そして概ね、右の如き取引基準が同業者間の相場となつて中古車の取引が行なわれているのが実情であり、その間に殆んど差がないと云い得る。

(2) 原告所在の福井県下におけるA自動車販売業者において原告の本件車両引継時とほぼ同時期に売買した本件車両と同一年型式の中古車の取引価格を調査したところ二、三の実例を示すと次のとおりである。

〈省略〉

以上を総合勘案すると原告の本件車両の引継時の客観的に適正な時価は、当初の取引価格すなわち訴外笹原の廃棄時における帳簿価額を超えることはないと判断されるのである。従つて、被告の認めた本件車両の価額は全く妥当であること明らかである。

(二) 同族会社の行為計算の否認について

本件和解による本件車両の価額改訂が、経済的実質的にみて経済人の行為として異常、不合理、不自然であつたかどうかについて。

1. 原告引継時の本件車両の適正な時価は、当初の受入価額一、三四三万三、九七七円を上廻るものではないこと、したがつて、その後本件和解により改訂した受入価額一、八四二万六、〇〇〇円は適正時価を大巾に上廻るものである。

しかも、本件車両の価額改訂にあたつては、原告らが大切な得意先であるために原告らの意に反してまでも厳正な客観的な鑑定をなし得ない立場にあるような業者を鑑定人として依頼し、そのうえ、鑑定評価額について、何ら明確な根拠も示されないまま増額改訂に応じている実情にある。

2. しかも、本件車両について、その価額改訂が原告により行なわれたのは、当初原告が訴外笹原と契約を締結し、かつ代金決済した後、実に七カ月を経過したうえ、しかも、当初受入価額に基づく原告の第一期決算確定後のことである。のみならず原告は、すでに本件車両のうち六台を使用済として売却処分した後のことなのである。この結果、当初受入価額で計算しても売却損が発生していたにもかかわらず、これら売却済車両六台についても、一七七万三、二一八円の値増しが行なわれたのである。

このような行為は、通常経済的合理性を尊重する経済人が一般になしうる行為とは到底云えず、極めて不合理、不自然、不利益な経済常識をはずれた取引であることは明らかである。原告は、訴外笹原と協議のうえ本件和解により価額改訂をしたとするが、これは訴外笹原と通謀のうえ単に形式的に表面を糊塗したに過ぎないものであつて、何ら本件価額改訂の不合理性、不自然性を治癒するものではなく、かえつて不当に法人税の回避、軽減を目的としたものではないかということもまた容易に推認され得るところである。

3. 原告は、右価額改訂の理由として錯誤により当初売買価額が適正時価でなかつた旨主張するが、これは本件和解の体裁を繕う口実にすぎない。

すなわち、訴外笹原は本件車両等を原告に譲渡のうえ廃業した際に有していた資産及び負債のうち、預貯金約一、九四〇万円、支払手形約一、九六〇万円および借入金約一、九六〇万円を原告に引き継ぎせず、その後、右支払手形のうち原告が訴外笹原に代つて決済した額を訴外笹原に対する貸付金として処理していたが、その貸付金を整理する手段として、このように車両の受入価額を増額する方法をとつたものであつて、当初契約金額が適正時価に比し低廉であつたためでは決してない。

そして、右の原告計算を認めた場合には、訴外笹原は、値増しした額と借入金(原告からみれば貸付金)とを相殺することによつて、労せずして原告に対する債務を免がれることとなるのである。訴外笹原は、本件車両の増額改訂部分については申告しておらず、そのことは本件増額改訂が会計処理上の操作に過ぎないことを充分に推認させる。

4. このような値増し行為がこともなげに容易に行なわれたのは、訴外笹原が原告の代表取締役であり、原告が同族会社であるからこそなしえたものであつて通常一般の純経済人の見地からしては到底考えられない異常、不自然、不合理なものといわなければならない。

そして、斯る行為は課税の公平の原則からみて租税を不当に回避するものといわねばならない。

すなわち、資産を適正な時価よりも高価に受入れたことにすれば、その資産を売却、その他処分したとき、多額の処分損を生ずる結果を生ずるから法人の利益が不当に減殺されるし、また仮に売却処分をなさなかつたとしても、将来減価償却する際、多額の償却を計上することになるから法人の利益を減殺する結果を生ずるのである。

以上のとおりであるから、原告の如く同族会社の行為又は計算でこれを容認した場合においては税負担を不当に減少させる結果となると認められるので旧法人税法三〇条を適用し被告の認定したところにより課税標準税額を計算したのである。

このような原告の価額改訂行為こそ法人(原告)の資産(代払額)を個人(訴外笹原)に不当に利得させることにより、法人に損失を与え、法人税を回避、軽減することとなるのであつてかかる異常、不合理な行為計算こそ旧法人税法三〇条の規定を適用すべき典型的な事例といわねばならない。

以上の次第で被告の本件各更正処分は何等違法と目されるべきものではない。

第三、証拠

一、原告

原告は、甲第一ないし第三号証の各一・二、第四ないし第一一号証、第一二号証の一ないし一五、第一三ないし第一八号証を提出し、証人山本進、同四十谷延広、同伊東寛次の各証言、原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙第二号証の二、第三号証、第六ないし第八号証、第一〇号証の成立は知らない、その余の甲号証(第一四号証は原本の存在共)の成立は認めると述べた。

二、被告

被告は、乙第一号証の一ないし四、第二号証の一・二、第三ないし第一〇号証、第一一号証の一・二、第一二号証の一ないし三、第一三号証の一・二、第一四、一五号証、第一六号証の一ないし四、第一七、一八号証を提出し、証人岡野与城、同山本進、同中谷弥平、同金子重志の各証言を援用し、甲第一ないし第三号証の各一・二、第四ないし第六号証、第八号証、第一二号証の一ないし一五の成立は認め、その余の甲号証の成立は不知と述べた。

理由

第一、請求原因(一)ないし(四)、(五)1、(六)、(七)の事実及び原告主張の日に原告主張の趣旨の本件和解が成立したことはいずれも当事者間に争いがない。また本件車両の減価償却後の未償却残高(簿価)は訴外笹原の使用開始時からの定率法による計算によれば別表Da即ち同人の譲渡時の簿価、定額法によれば同表Dbであるとする原告の主張、登録時からの定率法による計算によれば同表Dcであるとする被告の主張は当事者双方の明らかに争わないところであり、右Daが本件更正処分における被告の認定額であることは前示の通りである。

第二、総論

原告は当初の譲受価格(訴外笹原の当初簿価)は時価を下廻つていたので本件和解により適正な時価迄修正した旨主張し、被告は右簿価を以て時価を上廻るものではない旨主張する。

一、所謂企業の合併、譲渡ないしは組織変更等に際しての固定財産、就中償却資産の評価が適正なる時価によるべきことは会計学、従つて又税法上の原則であり、然らざれば本件の如き個人企業の所謂法人成りの場合にあつては往々過大評価に陥り、いずれは売却差損等を通じて設立会社にに損失を与え、従つて課税額を減少せしめる結果を招来し、税負担の公平の原則にも反する結果となる。

ところで原告会社は当初訴外笹原より簿価(定率法償却)により本件車両を引継いだことは当事者間に争いがなく、かつ弁論の全趣旨によれば同会社は設立後右引継車両の償却方法につき昭和四〇年改正前の法人税法施行規則第二一条の三に規定する定率法、定額法の選択をなさなかつたことが認められるので同規則第二一条の五により定率法による償却方法によるべきこととなるところ訴外笹原が右定率法による償却方法を選択していたことは当事者間に争いがない。もとより適正なる時価が右定率法による償却残高を上廻る場合にあつては右時価を以て評価することは前記会計原則に照して許されるところであるけれども、本件の如く一旦簿価を以て引継ぎながらその後改めて当事者間の和解により評価額を増額変更するようなことは通常の経済人の行為として極めて異常のことと云うべく、かかる場合には当然右評価額が適正なる時価であることが適正なる資料により裏附けられ、何人によりても首肯しうべきものでなければならないこと云うまでもない。

しかしながら一方被告においても適正なる時価が簿価を上廻る場合にあつては原告の右評価額を全部否認することは許されないところであるから、結局本件車両についての時価が簿価を上廻つているか否かが問題となるところ、当裁判所は結論として適正なる時価は当初簿価を上廻るものではなく、かつ原告主張の評価額は適正なる時価を反映したものでないと判断する。以下にこれを詳論する。

二、本件車両につき客観的に適正な時価を算定するためには本件車両を適当た鑑定人によつて個別に鑑定せしめるのが尤も望ましいところであろうが、後記の如く本件申告時においては既に一部車両が売却されている等の事情があり、かつ本件中古車の如き償却固定資産であつて、しかも所謂市場価格の存するものにあつては、その資産評価は会計学上も所謂再買時価(中古車の市場価格)を以てするのが妥当であるとせられているのであるから、課税庁である被告において各種資料にもとづいて本件車両と同種、同型、同年式の車両についての再買時価を以て本件車両の適正なる時価とみなすことも亦許されるところである。

そして適正なる前記再買時価を算定するのには多数取引事例ないしは右にもとづく自動車販売会社の内部査定基準価格、更には右多数取引事例を全国的に集計した中古車価格についての権威ある刊行物によるのが尤も妥当な方法と考えられる(中古車の如きにあつては全国的にその平均取引価格に大差のないことは公知の事実である)。

第三、本件車両の時価算定の各種評価資料の検討(特にオートガイド月報の下取価格ないし訴外千代田火災海上使用の自動車価格表について)

1. ところで原・被告提出の諸種の評価資料の内、オートガイド月報(成立に争いのない甲第八号証、乙第一号証の一・二、同号証の三・四)は原告会社の求めに応じて鑑定をなしたという証人四十谷延広の証言によると同人もこれを参考としたことが認められる如く一応中古車市場価格について権威あるものと認められ、且右月報は二ケ月に一回発行されるものであるところ前掲甲第八号証、乙第一号証の一・二、同号証の三・四を比較対照すれば、年月の推移に伴い概ね合理的な評価換をなしていることが窺われる。

しかして証人金子重志の証言及び前掲乙第一号証の一・二によれば右オートガイド月報昭和三八年九月一日ないし同年一〇月三一日版の販売価格による本件車両の評価額は別表Hdであること(但しポールトレーラー三台、NO.5の車両の本体、NO.6の車両は右月報に価格の登載がないため除く)及び右月報の販売価格はタイヤを新品と取替えた上での所謂市場デイーラーの販売価格を示すものであると認められる。ところが本件車両は未整備有姿のままで引継がれたものであることが弁論の全趣旨に徴しても明らかであるから、その評価額(再買価格)は当然に右販売価格を下廻ると考えるのが自然である。

従つて、右評価額から本件車両の時価を算定することは相当性を欠くというべきである。

2. 一方証人伊東寛次の証言及び右により成立の認められる乙第三号証によれば、石川県中古自動車価格鑑定協会の査定基準にもとづいて被告において計算した本件車両の残存価額は別表Gであること、右計算は取得価格に乙第三号証記載の残存価額率を月割で修正して乗じたものであることが認められる。しかし右残存価額率は一年迄のものについては他の評価資料に比し高い一方、一年以降のものは他の何れの評価資料よりも低い(五年を超えた例えば本件NO.8は評価零)ことが明らかであり、右事実と証人中谷弥平の証言によれば、右査定基準は市場価格を正確に反映しているとは言えないことが窺知できるから右査定基準による評価額を以て本件車両の時価を算定することは必ずしも適正とは言えない。

3. これに対して証人金子重志の証言及び前掲乙第一号証の一・二の記載によれば前記オートガイド月報の下取価格即ちデイーラーの買取価格及び成立に争いのない乙第二号証の一により認められる千代田火災保険使用の自動車価格表価格(最終小売価格)はいずれも市場における未整備車の買取価格であると認められるから未整備車である本件車両の時価算定には適切な資料であると考える。

そして証人金子重志の証言及び前掲乙一号証の一・二、第二号証の一によれば、右オートガイド月報昭和三八年九月一日ないし同年一〇月三一日版下取価格による本件車両の評価額は別表Hc(但しポールトレーラー三台、NO.3ないし6及び8の車両の下取価格は未登載)のとおりであり、又千代田火災保険使用の自動車価格表(以下「価格表」という)にもとづき被告の計算した本件車両の評価額は別表Ⅰ(但しポールトレーラー三台は価格登載がないため除く)のとおりであることが認められる。但し前記当事者間に争いのない本件各車両の登録年月日及び右価格表記載の加算率及び証人中谷弥平の証言とを併せ考えると右別表Ⅰのうち、NO.6の車両は昭和三八年一〇月において登録後約三ケ月経過のもの、NO.13の車両は同じく六ケ月経過のものであるから、前車は同表加算率中七月から九月の欄の三〇%を加算すべきであつて、この加算をしない被告主張の一三五万円は相当でなく加算をした一七五万五、〇〇〇円が正当な評価というべきであり、又後車は同表加算率中四月から六月の欄の二〇%を加算すべきであつて、この加算をしない被告主張の六九万円は相当でなく、加算をした八二万八、〇〇〇円が正当な評価というべきである。

4. ところで前記オートガイド月報の下取価格と価格表を対比すると前記オートガイド月報の下取価格はデイーラーのマージンを考慮していないのに比し、価格表(最終小売価格)は弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二号証の二によれば同じくオートガイド社の編集にかかるものであつてその評価基準をほぼ同じくしているものと推認され、かつ後者は前者に比し一ケ月遅れの評価にかかわらず一率七万円上廻つており、ほぼ右部分が所謂小売マージンとして評価しているものと推認することができる。

5. なお、証人中谷弥平の証言及び右証言により成立の認められる乙第六号証によれば、訴外石川いすず自動車株式会社の中古車下取評価基準は被告主張のとおりであり概ね前記オートガイド月報下取価格より高め、価格表よりは低めであることが認められ、また成立に争いのない乙第四号証と証人金子重志の証言によれば福井県における昭和三八年中の本件車両と同一年式型式のいすず中古トラツクにつき被告主張のとおり六三年式を一一五万円、六二年式を六〇万円、六一年式を七〇万円、六〇年式を五〇万円とする取引事例が存することが認められる。

してみると、本件車両の時価は概ね前記オートガイド月報の下取価格(ディーラー買取価格)ないしは前記価格表の価格を超えないものと認めるのが相当である。

6. そして証人金子重志の証言とこれにより成立の認められる乙第七、八号証及び証人中谷弥平の証言によれば、前記三台のポールトレーラーの訴外笹原の取得価格は別表NO.3およびNO.4のものが各金二六万三、八二六円同NO.5のものが金三二万一、〇六六円であり、いずれも中古トラツクを解体しその台車部分を利用して製造されたものであること、かかるポールトレーラーは買手が殆んどないため、デイーラーが下取する場合にはその価格は使用経過年数に拘らず右三台共一〇万円程度と評価されるに止まること、以上の事実が認められる。

従つて適正なる時価の上限である前記価格表にもとづく本件車両の評価額にポールトレーラーを仮りに訴外笹原の取得価格のままとして評価算定したとしても別表Jのとおり合計額は一、一四二万八、七一二円となるから、結局において適正なる時価(再買価格)は本件簿価に遠く及ばないこと明らかであるというべく、このことは各更正年度毎の更正処分対象車両の評価額の合計についても亦同様である。

第四、原告提出の鑑定書(甲第七号証)等の信憑性及び原告主張の使用価値説の当否について

1. 尤も本件評価に際しては、現実の使用状況に即してなされなければならないことは原告の主張するとおりであるところ、証人四十谷延広及び原告代表者本人は、本件車両は使用状況が良好であつた旨証言しているが、同人の鑑定書(甲第七号証)には、何ら具体的な車両状況の記載がなされていないのみならず、前掲乙第一六号証の三及び証人岡野与城の証言によれば、鑑定をなしたという昭和三九年五月時点において、既に三台ないし六台が売却済みであること、右鑑定書は本件審査請求手続中にも原告より審査担当協議官に提出されていないこと、以上の事実が認められることに加えて、証人四十谷延広の証言と前記鑑定書を対比すれば、同人はポールトレーラーをNO.5においておよそ一〇〇万円、他のNO.3・NO.4においても概ねこれに近く評価していることが認められる。

しかしながら、前記認定のとおり本件ポールトレーラーの取得価格はいずれも三〇万円前後であるのであるから、同人の証言内容は極めて不正確なものであり、右鑑定評価額は、信憑性に乏しいと言わざるを得ないのみならず、成立に争いのない乙第一三号証の二の記載額(同号証の一により訴外小酒井博の計算による定額法による償却法の残存価格に一率二〇万円を加算したものと認められる金額)に全く一致するところからしても実際に使用状況等を考慮した上鑑定がなされたとは到底認められず、同趣旨の原告代表者本人尋問の結果もにわかに信用し難く、他に本件車両の時価が本件簿価より高いと認めるに足りる証拠はない。

なお、原告は売買事例として甲第一三ないし第一七号証を提出しているが、原告代表者本人尋問の結果によるも、甲第一三号証は成立に争いのない乙第一六号証の三・四と対比するとその書証記載の如き売買がなされたか否か甚だ疑わしく、原告代表者本人尋問の結果により成立が認められるその余の右各甲号証記載車両も新車か否か明らかでないかないしは整備車のデイーラーの販売価格であつていずれも前記認定を左右するものでない。

2. 原告は、一方において本件評価は再調達価格によるべき旨主張しながら、一方使用価値ないしは能率価値を重視すべきことを主張するが、右両主張は主張自体互に相容れないのみならず后者の主張が継続的使用目的の場合には再買価格を超えて能率価値を以て評価すべきであるとの主張であれば遅くも五年程度を以て新車と買換えること公知の事実である運送会社において譲受車両価格をかかる一方的恣意的な評価を以てなすことは前記の如く受入会社の経営の健全化を害するものとして会計学上の原則に反するものであつて到底採用しえない。

第五、行為計算の否認について

以上の通り本件車両の昭和三八年一一月二一日当時の時価は総計のみならず各更正年度毎の対象車両毎の合計額についてみても譲渡人たる訴外笹原の簿価を上廻るものでないところ、前説示の通り原告は法人税法上の同族会社であること、原告と訴外笹原間で右譲渡から約七ケ月後の昭和三九年五月二八日右価額を別表Eのとおり一、八二四万六、〇〇〇円と増額改訂する旨の本件和解が成立したこと、被告は右当初譲受価額と増額改訂後の価額との差額四九九万二、〇二三円(別表F)を本件更正処分において、原告の訴外笹原に対する貸付金と認定し、旧法人税法三〇条に規定する同族会社の行為計算中法人の譲受資産過大に該当するとしてこれを否認したことは当事者間に争いがない。

一、右事実に成立に争いがない乙第九号証、第一一号証の一・二第一二号証の一ないし三、第一三号証の一・二、第一四号証、証人岡野与城の証言とこれにより成立を認める乙第一〇号証、証人山本進、同金子重志の各証言を総合すると本件和解成立に至るまでの経緯は次のとおりであることが認められる。即ち、訴外笹原は自己の経営する運送業を廃止して原告会社を設立するに当り、本件車両を含めその殆んどの資産、負債を原告に譲渡し、収支決算したところ負債勘定を生じたため、原告は同人に代つて右負債額八九九万二、〇二三円を第三者に支払い、当初は取敢えず右代払金を原告の同人に対する貸付金として処理していたこと、しかるに訴外笹原としては原告会社設立に当つて自己に負債が生ずることを予期していなかつたことから、その後原告と訴外笹原間で譲渡された営業権価額を四〇〇万円増額して八〇〇万円と、本件車両価格を四九九万二、〇二三円増額して別表Eの通り各改訂し、右改訂増額分合計八九九万二、〇二三円を訴外笹原に対する未払金として計上したこと、そして右未払金中八九三万七、二一六円を原告の第一期決算期である昭和三九年三月三一日に前記貸付金と相殺し更に同年六月三〇日に残額五万四、八〇七円と相殺経理を終つていたが、同年五月二五日開催された原告の第一回定時株主総会においては、改訂前の価額(本件車両については別表Ddの価額)で承認を受けたこと、その後同月二八日本件和解(その内容は本件車両および営業権譲渡時の昭和三八年一〇月二一日において右車両および営業権の適正な価額は二、六四二万六、〇〇〇円(当初は一、七四二万三、九七七円、その差八九九万二、〇二三円)と認め、その差額を同年六月から毎月末日限り六〇万円宛割賦(一五回払)で支払うこと、割賦金の支払を二回以上怠つたときは期限の利益を失い残額を一時に支払うこと)がなされた、以上の事実が認められ、右認定に反する原告代表者本人尋問の結果部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠は存せず、なお訴外笹原が当初譲渡価格と改訂価格との差額につき個人としての所得申告をなしていないことは当事者間に争いがない。

右認定事実によれば、原告と訴外笹原間になされた本件車両の増額改訂は訴外笹原が自己の運送業を廃止する際生じた負債を原告が肩代りし、右訴外人に損失を負わせないようにする目的を以つて作為的になされたものであり、本件和解も単に両者間の計理上の形式を整えるためになされたものに過ぎないものと認める外はない。

二、これに加えて前認定のとおり、原告が適正なる時価を上廻り当初簿価をもはるかに超える本件和解における車両価格改訂の根拠とする訴外四十谷等の鑑定結果が全く合理的根拠に欠けるものであることを併せ考えると、右の価格改訂は一般的経済人(企業)の行為としては経済的合理性を全く無視した異常不自然な行為計算と断ぜざるを得ないから、右行為計算が直接的には訴外笹原の負債を原告が肩代りし同人に損失を負わせないためになされたものであるとしても、なお、不当に法人税の負担を減少させることとなることに変りはなく、従つて旧法人税法三〇条一項に基づきこれを否認し、当初譲受価額と改訂価額との差四九九万二、〇二三円を原告の訴外笹原に対する貸付金と認定したうえなされた本件各更正処分に何等の違法は存しない。

第六、結論

以上の次第で本件各更正処分の違法を前提としてその取消を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 川田嗣郎 裁判官 桜井登美雄)

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